Zephyr Cradle Diary


2014.07.07 (Mon)

[音楽] 継承されしもの

大変恵まれた環境にあってか、自分のフルオケ編曲したスコアを演奏してもらう機会が何度かあります。それは現在進行形でもしかり。音屋冥利に尽きるというものです。

楽譜に起こされる譜面であろうと楽譜を作らない楽曲であろうと、自分が打ち込む音楽はいつも、受け取り手に全てを委ねています。それはリスナーだったり、奏者だったり、コラボ相手だったり、指揮者だったり、楽団だったり。

所詮自分がどんな言葉を紡ごうと、発した音が全てで、そこにいかな言葉を足そうと引こうと、その音を聴いたときに聴いた人間の中に生まれた感情ってのが全てだと思います。それを否定する気は全くないし、逆に肯定する気もあまりないです。どう感じたって良い。どう感じたって正解。音楽というパワーはそれだけ自由度の高い表現方法であると思っています。

その音楽を聴いたときの時間や場所、シーンなどの思い出は音楽に強く結びつけられるものです。心理学で言うところのエピソード記憶に強く関係していると思います。ああこの曲を聴いたとき自分はどんなだったなとか、どこに居たなとか。その頃はまだ若かったなとか。作った本人ですら、全く同じデータのMP3を聴いた時期によって想起される感情は毎回違いますからね。不思議なモノです。それでいて、もの凄く贅沢です。たかだかこの程度の小さな情報で感情が乱高下するのですから。

話を戻すと、自分は自分の創作物*1を世に送り出した時点で、その音楽は受け取り手のものになると思っています。その受け取り手のこれまでの人生とか今の心境とかのフィルターで濾された結果としての感情は、絶対的に不可侵だし大切にしたいと思うし、そこに余計な口出しをしたくないなあと思います。もちろん、それを手助けするために必要最低限の付加情報を付けることもありますが(ポエミィな謳い文句とか画像データとか)。

楽団に提供した楽譜に対して、ときどき「ここの音はどういう意図を持たせているのか?」「ここはどう表現するのが編曲者の意図した感じか?」と聞かれるときがあります。それはもちろん自分の表現力不足から来るものもあるとは思いますが、でもどちらかというと「自分はこう思ったんだけど念のために本人の意図も聞いてみたい」ってケースが多いような気がしています。そりゃあ、クラシックの作曲家や有名な作曲家と違って生きてるし目の前に居るのですから、確認できるならしたいと思う気持ちはごく自然なモノだと思います。

でも、ですね。自分はそういうのを聞かれたくないんですよね。

先ほども書いたんですが、その音楽はすでに自分の手を離れていると思っています*2。あとはそれを受け取った側に委ねたい。この音楽を聴いて、この譜面を見て、どう感じたのか。たぶんそれはどの解釈も概ね正解です。思いつかないなら考えてみてこじつけてもらいたい、そこまでしてしまっても良いと思います。

だってもし自分がそれを聞かれたら、適当にこじつけて答えますから。後出しの情報なんて全部こじつけか演出ですよ。それは感情的なモノというよりは、理性的・妥協的なモノです。計算された答えを返すと思います。こうしたほうが響きが良いからとか音域が埋まるからとか周波数帯に空きがあったからとかパンを埋めたかったからとか、そんなのです。あるいはそう言った方があざとく聞こえるとか。

自分はそういうのよりも、受け取り手側が感じたモノをそのままに咀嚼して、そして表現してもらいたい。非常にわがままですけど、そう思います。

無責任に丸投げする形になりますが、でもそこはやっぱり、受け取った側が最初に感じたりじっくり考えて出した答えを否定したり肯定したりしたくないんですよね。オーケストラなら奏者の数だけ、聴衆の数だけ感じ方が違うと思います。それが面白いんだと、思いたいんですよね。元々は確かに自分がはき出したものかもしれない。でもそれを受け取った側が解釈を捻ってみたって、それはそれで面白いと思うのですよ。そこからどう転がっていくのか、それを眺めていたいなあと思うのです。贅沢ですが。

ああ、これ自分が普段から二次創作畑に居るから寛容というか推し進めたいとすら思ってるのかもしれないなあ……。誰かが作った作品を自分なりにぶっこわして再構築するって作業、凄く好きです。それを作品の冒涜にならないレベルで行って、自分なりの解釈をめいっぱい付け足して、どうだ俺はこう感じてるんだ! ってはき出すの。凄く気持ちが良いんですよね。それは当然自分がはき出した作品を受け取るであろうさらにその先の人たちにもそうしてもらいたいなあと、強く思います。自分が感じた思いは、やっぱり大切にしてもらいたいと願います。それに対して元の作者が口を出したくないなあって、思うんです。事前のインプットはアリ。でも後出しのインプットはナシかな、と。

長くなりましたがそんなこんなで、今自分はとても贅沢な環境に置かれているなあとは思います。でも、それは全ての人に感じて貰いたい! 上から押さえつけられて指示されて演奏するのではなく、もっと自由に表現して良いんだ! 素直になって良いんだ! というところをもっともっと感じて貰いたいなあと思います。とても上から目線で嫌な奴ですが。

いやはや、音楽って深いなあ。

*1 まあもっぱら二次創作なので「自分の創作物」と言ってしまうのは非常におこがましいのですが……。

*2 もちろん音が間違っていたら直しますので、その点の責任は取りますが。